。」
「やつぱしさうだつた。こゝだつた。あれ、たしかにさうね、こつち――」
「……さう、たしかに――まあ、よかつた。」
「あれ、お客様かしら?」とお妙は、のぞいて見て「あら、ツーさんよ、ほら、いつかヲダハラの家にいらしつたことのある!」と叫んだ。
「どれ……うむ、さう/\――ケーオーの書生さんだつた!」
はじめは座蒲団を枕にしてゐたんだらうが、二人とも枕とは飛んでもないところに頭を転がして、殺されたやうに眠つてゐる……。
「ツーさん」は、さかさまに梯子段からでも落つこちたまゝのやうなかたちで、一本の脚は高く籐椅子の上に載せ、片方の脚は頭の近くまで飛ばせて、ワツと叫んだ者のやうに両腕を拡げてゐた。――樽野の悴は、着物などはまるで体から離れて腰にはさんだタオルのやうに傍の方にまるまつて、シヤツと股引《もゝひき》ひとつになつてしまひ、腹匐《はらば》ひで、頬つぺたをぢかに畳におしつけ、涎を垂してゐた。鼻は畳におされて横に曲り、一つの鼻孔しかあいてゐない。口は三角に圧《お》しつぶされてゐるし、下の眼は「猫の眼」なつてゐる。泣き顔みたいにも見えるし、怖しい苦悶を表してゐるやうにも見える。――お蝶
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