あ》ちやん、あく?」
「気分が悪いの?」
お妙《たへ》は、うしろ向きになつて硝子戸に顔をおしつけたぎりで、降りる停車場を気をつけてゐたのである、お蝶に云ひつけられたまゝに――。「悪いの?」
「悪いといふほどでもないんだけれど……」
「あたしにあけられるかしら!」
訪ね先きに悪いと思つて、わざとあたり前の小娘風にお妙をつくつて来たのであるがお蝶は、気にして見る度に、そのために二人の気分までが窮屈になつてならなかつた。斯んな時には、ひよいと知つた人にでも遇ふものだ、遇つたら敵《かな》はない……お蝶は、自分の考へてゐることがわけもなく苛々して、心細く、気づくと吾ながら可笑しかつた。
「気分は、別段悪くもないけれどさ、妙ちやん! これぢや、この騒ぎぢあ、聞き損ふかも知れないからさ……」
「大丈夫よ、それは――あたし。」
「いゝえ、いけない――あけておかう。」
二人がかりで窓をあけようとしてゐると、得体の知れない西洋風のお面を頭の上にのせてゐる酔つた人が、つまらない冗談を云ひながら手伝つて呉れた。
「――済みません。」
「……お嬢さんには……」と称《よ》ばれた。他の言葉はお蝶には聞きとれな
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