でもないが、何だか臆劫な……かしら? まあ、お花見季が過ぎてから――といふつもりで、今日にしたのだつた。
それだのにこの電車の有様といつたらない、往きなのか帰りなのかも知らないが、皆なお花見の連中ばかりだ、何処に今ごろ咲いてゐる花があるのかな?
今ごろ花があつて! あんなに浮れてゐるお花見の連中! ――何だか飛んでもない国に来てしまつたやうな気がする! ……ゆうべ、さつぱり眠らなかつたせゐか寝不足も酷い! 半日あまりも乗る汽車なのだから、中で少し位うと/\出来るだらうと思つてゐたのに、それも駄目だつた……。
お天気はのどかで、とても好い日なんだが、たゞでさへ眠くでもなりさうなうら/\とする日なんだが――いくら慣れないとはいふものゝ、ほんの一寸した知らない所へ行く位が、こんなにも気苦労では、あたしも仕様がないといふものだ!
煩い/\/\! まあ何といふ騒々しい電車なんだらう、何といふ大変な浮れ様だらう、あの連中は! よく車掌さんが文句も云はないものだ。
「あゝ、のぼせあがつてしまふ。」
お蝶は、それでも他人に悟られることを怯れて、そつと呟いた。――「窓をあけようかしら? 妙《た
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