「風博士」
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)偏奇境《ベロナ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)発酵した|とてつもないおしやべり《アストラカン》です

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)少々馬鹿/\し過ぎて
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 厭世の偏奇境《ベロナ》から発酵した|とてつもないおしやべり《アストラカン》です、これを読んで憤らうつたつて憤れる筈もありますまいし、笑ふには少々馬鹿/\し過ぎて、さて何としたものかと首をかしげさせられながら、だんだん読んで行くと重たい笑素に襲はれます。この笑素は化学読本で御存じのあの酸素中の一原素の謂です。決してペーソスなんていふしやれたものではなくて、それはとても悠長なトアパイロン見たいな、出来損ひのアミーバ見たいな奇怪なデタラメさ加減なのですが、さうかと思ふと洒落たアカデミアンで、読んでゆくうちに何だか得体の知れない信用を覚えさせられて来るのです。
 そんな感じの小説を読みました。二三日前に、この頃読んだ小説のうちで傑れたものといふ質問をうけた時、私は何うしたことだつたか
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