つたら、さぞかし俺の心は伸々として、朗らかに晴れ渡ることだらう……それにしても、今晩は、ばかに寒いな!」
彼は、襟の中に頤を埋めた。ふところにこもつた酒臭く熱い息が、あかくなつた鼻を衝いた。――彼は、歩きながら、ふところの眼鏡に、そつと手を触れた。
「F……暫く、とても手紙は書けさうもないよ、お前の要求どほりな! つまり、ヘンリーが死んだとなると、NとNの母のことが、どんなに俺の心を不安にするか、お前には好く解るだらう、さうなるとお蝶といふ女の話もお前にしなければならないんだが、そんな話をするとヘンリーに対するお前の好意が薄らぎはしなからうか? NとNの母が、どんなにヘンリーを憾むだらうか? なんて、ヘンリーの、実は忠実な悴は心配するのさ、あの頃のヘンリーの家庭、つまり俺たちの家庭が、どんな風で、何故彼が放蕩者になつたか? そのことも話さなければならないんだ、だから、どうかヘンリーを放蕩者だと思つてくれるな、お前のダツデイは、ヘンリーの親友ぢやないか、そしてお前は、俺の親友だつた、かな? NとNの母の消息を出来るだけ多く知らせてくれ。――いつそ俺は、思ひ切つて、この冬が去つたらお前の
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