れに反し、いかに完備した境遇であっても、他に種々の希望があって現実が不統一の状態であった時には、意志が妨げられているのである。意志の活動と否とは純一と不純一、即ち統一と不統一とに関するのである。
 例えばここに一本のペンがある。これを見た瞬間は、知ということもなく、意ということもなく、ただ一個の現実である。これについて種々の聯想が起り、意識の中心が推移し、前の意識が対象視せられた時、前意識は単に知識的となる。これに反し、このペンは文字を書くべきものだというような聯想が起る。この聯想がなお前意識の縁暈《えんうん》としてこれに附属している時は知識であるが、この聯想的意識|其者《そのもの》が独立に傾く時、即ち意識中心がこれに移ろうとした時は欲求の状態となる。而してこの聯想的意識がいよいよ独立の現実となった時が意志であり、兼ねてまた真にこれを知ったというのである。何でも現実における意識体系の発展する状態を意志の作用というのである。思惟の場合でも、或問題に注意を集中してこれが解決を求むる所は意志である。これに反し茶をのみ酒をのむというようなことでも、これだけの現実ならば意志であるが、その味をため
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