B人間は用具を有《も》つということによって、動物から区別せられる。そして作られたものから作るものへとして、社会の経済的機構が発展して行く。家族制度の如きも、一面にはかかる経済的機構から考えられるであろう。財産制度の起源については、色々の学説があるようであるが、我々が物において自己の身体を有つという歴史的身体的形成から成立すると考えなければなるまい。
 矛盾的自己同一として自己自身を形成する世界は、一面には環境から主体へということでなければならない。それを生物的生命的といったが、人間に至ってもそれを脱するというのではない。而して矛盾的自己同一としての人間の世界に至っては、それは単に本能的でなく、表現的形成的でなければならない。それが環境が何処までも自己否定によって主体的となるということである。矛盾的自己同一的な人間の世界では、主体が自己を環境に没することによって主体であり、環境が自己否定によって主体的となることによって環境でなければならない。而して世界が斯《か》くあるということは、何処までも自己自身の中に世界を映し表現的形成的である個物が、自己自身を形成する世界の一角として爾《しか》ある
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