、此の広告を知らぬ顔で居れば今から二月の後、五磅遣ると云って来ました、其の方に従うが得ですもの」五磅と云う分外の報酬を此の子に遣り口留めを仕ようとする所を見ると先も余ほど自分の名を厭う者に違いない、爾すれば愈々彼の贋電報は深い目的が有って掛けた者ゆえ余も愈々差出人を知らねば成らぬ。「好し、十磅は茲に在る」と云って夫だけの紙幣を差し出して示すと、小供は「是だけ戴いても茲へ来る旅費も掛って居ますから余り旨い事は有りません」小利口な前置きを置いて爾して、説き出した。

第十八回 異様な花道

 小供の説き出した所に由ると、幽霊塔から僅かに七八丁離れた所に、草花を作って細々に暮して居るお皺婆と云う寡婦が有る、其の家は千艸屋《ちぐさや》と云って近辺で聞けば直ぐ分る、此の小供は其の家に雇われ草花の配達をして居る小僧である、或る時其の家へ年頃五十位の背の低い婦人が来て草花を買い、帰りがけに密《そっ》と小僧を物影に呼び、誰にも知らさずに此の電報を打って呉れと頼み、後々までも無言で居る様にとて口留めの金を一磅呉れた、其の翌朝、草花を配達して田舎ホテルへ行った所、其の婦人が犬猫よりも大きい狐猿を抱いて宿を
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