のだよ」斯う聞いては実に極りが悪い、極りは悪いが併し嬉しい、彼の秀子が此の叔父の養女として永く此の家に、余と一緒に棲む事と為れば、其のうちに又何の様な好い風の吹くまい者でもない。
 叔父は猶説明して「己は直ぐにも披露し度いけれど、当人の望みに由り、愈々幽霊塔の修繕が出来上り己が引き移って転居祝いの宴会を開く時に、一緒に養女の披露をする。夫まで秀子は今まで通り此の土地の宿屋に居て日々此の家へ来る筈だ」余「何しに来ます」叔父「己の書き物などを手伝いに来るのサ実は朝倉家に居る間も手紙の代筆などを頼んで見たが流石『秘書官』の著者だけに、己が在官中に使って居た書記よりも筆蹟文章ともに旨い。是から日々此の家へ来て幽霊塔の修繕に就いての考案などを己と相談し其の傍ら己の書斎をも整理して呉れる筈だ、其の様な事柄には仲々面白い意見を持って居るよ、己は先ア娘兼帯の秘書官を得た様な者だ」と云い、更に思い出した様に「シタがお浦は何うした」と問うた。余はお浦が根西夫人と共に外国へ行った一部始終を告げ、且《かつ》は余とお浦との間の許婚も取り消しに成った事を話した、叔父は真面目に「己もお浦を彼の様に恐ろしい心とは思わ
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