示しては到底助からず、極静かに大胆に先の眼を睨み附けて居れば先も容易に飛び附く事は出来ず、ジッと此方の様子を伺って居る者だと兼ねて聞いて居ましたから私は其の通りにして居たら、貴方が飛び込んで下さって、虎が貴方へ振り向きましたから夫で初めて鉄砲を取り上げる隙が出来たのです、取り上げてからは、モッと早く射る事も出来ましたけれど何でも急所を狙って一発で射留めねば成らぬと思い、夫に若し誤って貴方を射てはと、充分に狙いを附けた者ですから」余「イヤ夫にしても能く弾丸《たま》を籠めた鉄砲が有りましたネ」怪美人「ハイ是は今朝、獣苑の虎が逃げたと聞いた時、此の家の主人が若しも何のlな事で此の辺へ迷って来ぬとも限らぬから、何時でも間に合う様に弾丸を籠めて置くと云い、兼ねて此の家に逗留して居る数人の客を此の室へ連れて来て、誰でも虎を見次第《みしだい》直ぐに他の者へ合図を与え、爾して此の室へ駆け附けて鉄砲を取り出す事を約束を致しました、私も両三日以前から此の家へ逗留して居る者ですから、其の時に此の室へ来て居たのです」余は何にも云わず、唯主人の周到な注意に感服し情が余りて我知らず秀子の両手を我が両手に捉え「アヽ
前へ 次へ
全534ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング