経て評論雑誌に此の書の評が出て、甚く著者の才筆を褒め、猶此の書の著者が先頃より此の英国へ来て居る、一部の交際社会に厚く待遇されて居ることや、目下サリー地方を漫遊して居る事まで書き加えて有る。
此の時宛も其のサリー地方の朝倉と云う家から叔父の許へ奇妙な招待状が来て居た、奇妙とは兼ねて色々な遊芸を好む其の家の主人(朝倉男爵)が此の頃新たに覚えた手品を見せ度いと云うので有る、素人手品は総ての素人芸と同じく当人には甚く面白いが拝見や拝聴を仰せ付けられる客仁に取っては余り有難い者でない、朝倉男爵は通人だけに其の辺の思い遣りも有ると見え、猶隣の郷へ恰もチャリネとて虎や獅子などを使う伊太利の獣苑興行人が来て居るから夫をも見せると書き添えて有る、虎にしろ獅子にしろ叔父は余り其の様な事を好まぬ気質で、此の招待は断るなどと云って居たが、評論雑誌の記事を見てから急に行く気になり、相変らず余とお浦とは附き随われて出掛けて行ったが、途中で大変な事件を聞いた、夫は外でもない、チャリネ先生が印度とか亜弗利加とかから生け捕って来た大きな虎が、夜の間に柵を破って行方知らずと成ったと云う事で、警官などが容易ならぬ顔をし
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