未だしもの幸いゆえ、之を父上と貴方とへの万一の御恩返しと致します」斯う云って未練もなく立ち上った、之で全く此の所を、イヤ此の家を立ち去る積りと見える、余は再び叫んだ「貴女は先刻私が、貴女の身に掛かる濡衣が総て晴れる事と成ったと云ったのを何とお聞きでした、昔の汚名も新しい疑いも悉く無実であると云う事が明白に分る事と為って居ますのに」誠ならば嬉しやとの心、顔には現われねど、何所にか動き立つ様に見えた、秀子「誰れが其の無実と云う事を証明して呉れますか」余「夫は権田時介が」秀子は唯怪訝に、「ヘエ」と云った儘だ。
余は自惚かも知れぬけれど「私が証明します」と答えたなら秀子が定めし喜んだで有ろうけれど、権田時介が証明するとでは余り嬉しくないと見え、確かに失望の様が見えた、爾して「でも権田さんは其れを証明する代りに何うせよとか斯うせよとか報酬の様に何か条件を附けるのでしょう」其れは勿論である、救うて遣る代りに己の妻と為れと云うのが彼の唯一の目的である、けれど決して妻に成らねば救わぬと云うではない、又救うた報酬に無理に妻にしようと云うでもない、唯救うて遣って其の上に猶及ぶ丈の親切を盡したなら其のうち
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