子嬢に最一度逢って教えて貰うより外はない」と云ったが、頓て背後から此の咒語此の聖書を見、驚いて「ヤ、ヤ、是は大変な物が出て来た、此の聖書は昔から丸部家の家督を相続する者に伝えて来た宝の一だ、咒語は到底何の事だか分らぬけれど丸部家の当主たる者は誕生日毎に此の咒語を暗誦して其の意味を考えねばならぬと云う事に成って居たのだ、全体此の聖書は何所から出た」余「今此の戸棚に在りました」叔父「それは益々もって不思議だ、此の聖書は輪田お紺婆が此の塔を買い取るより数年前に紛失して、時の当主は大金を掛けて詮索したが到頭出ずに仕舞ったのだ、若しその時に此の戸棚に在ったなら直ぐに当主が見出す可き筈で有る、勿論此の戸棚などは空にして探したけれど出て来なんだ、何でも一旦紛失した物が時を経て茲へ返ったのだ、聖書が独りで返る筈はないから誰かが持って来て密っと入れたのだ」余は益々怪美人の言葉を思い合せ、彼の美人が余に此の咒語を解かせ度いとでも云う親切で此の聖書を茲へ入れたに違いないと思う、併し彼の美人が何うして此の聖書を持って居たかなど云う点は更に分らぬ、分らぬけれど分らぬ事だらけの怪美人のする事だから、何も是のみを怪
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