言葉がない。
 けれど余は漸く合点が行った、今のは十一時で有ったから、十二の凸点が一個残り、之が閊《つか》えて戸を開け放す事が出来なんだけれど、若し十二時になれば意地の悪い凸点が悉く隠れるから戸は人の力で充分開け放す事が出来るのだ、斯う思って再び戸を見ると戸は自然に後へ返り、早や元の通りに閉じて了った、幾等泣いても悶いても仕方がない、唯十二時を待つ許りだ、十時に這入って此の窮屈な所に十二時まで待つとは、日頃なら到底出来ぬ辛抱だ、と云って出る所もないのだから出来ぬ辛抱を余儀なく強いられるのだ。
 此の間の余の煩悶は管々しく書くに及ばぬが凡そ三千年も経ったかと思う頃漸く十二時とは為った、全く余の見抜いた通りである、鐘の音の十二鳴り盡くすと共に十二の凸点が隠れて了ったから、余は戸に手を掛けて引き開けたが、意外に軽く、突き当るほどに開け放れた、一人も二人も通過する事の出来る広さである、余は雀躍《こおどり》して茲を抜けたが、是で見ると此の関所は十二時でなければ出入りの出来ぬ所だ、秀子が茲を通ったのは真昼の十二時で有ったのか、爾すると明日の真昼までは此所を出る事が出来ぬか知らん。
 戸の外は矢張り
前へ 次へ
全534ページ中460ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング