の知らせに此の咒語を開いたでは有るまいか。
第百四回 目に留る一物
此の幽霊塔を建てた当人さえ、一たび落ち込んでは終に出ることが出来ずして「助けて呉れ、助けて呉れ」との叫び声を、空しく外に洩しつつ悶き死んだと言い伝えられて居る此の塔の底に松谷秀子が身を投げたで有ろうか、唯想像するさえも恐ろしい程だから、真逆にとは思うけれど、前後の事情を考え合わせば、何うも身を投げたとしか思われぬ。
真に身を投げたのなら、今頃は塔のドン底で何の様な有様と為って居るやら、彼の千艸屋で買ったと云う毒薬を呑み、最う既に何の苦痛をも知らぬ冥界《あのよ》の人と為って了ったであろうか、夫とも猶だ死にはせず、其の身の不幸や、浮世の邪慳な事などを思い廻し、一人で思う存分に泣き入って居るで有ろうか、孰れにしても実に早まった次第である、僅かに一時間か、二時間か、余が茲へ来るまで待って居たなら、其の身に掛かる恐ろしい濡衣が、乾すに乾されぬ事のない次第も分り、死なずとも済む事が腑に落ちて、大した愁きもなく収まる所であったのに、エエ、残念とも心外とも今更譬うる言葉もない、思えば実に不運不幸な女ではある、幾年幾月、艱難辛苦
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