余「ハイ聞きましょう、貴女も有体に云う方が、罪が滅びます」とは云えお浦は仲々話などの出来そうな様ではない、顔の色青冷めて全身が震えて居る、余は此の様な悪人に手を触れるさえ汚らわしい程に思って居れど、此のまま置いては何の様な事に成ろうとも知れぬ故、先ず助け起こし長椅子へ息《やす》ませようと思い、其の手を取るとお浦は溺れる人の様に余の手に獅噛《しが》み附き、身体の重みを余の腕に打ち掛けた、余は彼の書斎でお浦が紛失した少し前に、丁度此の様に手に縋られ喃々《なんなん》と説かれた時の様を思い出した、余り好い気持はせぬから成る丈早く此の荷物を長椅子へ任せて了った。
 けれど猶話し得そうにも見えぬから、葡萄酒でも呑ませたらと思い、室中を見廻しつつ「浦原さん飲物でも欲しくは有りませんか」お浦は人生の恨みを唯此の一刻に引き集めた様に呻き「ハイ毒薬ならば飲みましょう」と云ったが、更に「イエ、イエ、私は生まれ附き臆病です、飲み度くとも毒薬などは飲み得ません、死ぬる苦痛が恐ろしい、死ねば真暗に成った様な気持がするだろうと夫が恐ろしいのです、道さん、イヤ丸部さん、何にも要らぬから、話す間貴方の手を握らせて置いて
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