た。「エエ、欺された、欺された、アノ悪人に、彼奴め復讐をさせて遣るの秀子を滅して遣るのと云い、初めから人を欺き、爾して今は其の復讐さえも出来ずして終わるとは」余は女の涙には極めて脆い性分である、お浦の様な忌む可く憎む可き女の顔にもまこと涙の流れるを見ては甚く叱り附ける勇気がない、少しは言葉を柔らげて「貴女は誰の事を其の様に云うのです、彼奴めとは誰を指します」お浦「彼奴めとは彼奴めですよ、彼の悪人ですよ、私の所天《おっと》ですよ」余「エ、エ貴女は既に所天を持ったのですか、貴女は所天が有るのですか」お浦「ハイ彼奴が私を欺いて無理に婚礼させました、御存じの通り私は自分の過ちの為とは云え貴方に捨てられ、其の腹立たしさやら絶望の余りに益々深く彼奴の様な悪人の言葉を聴き、彼奴が貴方に対して充分恨みを晴させて遣るの、秀子を滅して遣るのと云うにツイ載せられて、ハイ私は彼奴の為に道具に使われまして、今までとても気が附いては居ましたが、今ほど明らかに彼奴の憎さが分った事は有りません」余「だけれど其の彼奴と云うのが誰の事か未だ私には分りませんが」お浦「オヤ貴方に分りませんか、彼奴とは高輪田長三の事ですよ」高
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