は、併しナニ茲が痴情の然らしむる所でしょう、私としても貴方の地位に立てば貴方と同様のことを目論むかも知れませんから先ア深くは咎めますまい、兎も角も貴方の其の目論見を妨げて、貴方が法律上の罪人に成るのを喰い止めたのは何よりも幸いです、他日貴方も痴情が醒め、静かに考え廻して見れば実に好い所へ森主水が来て邪魔して呉れた、彼が来なくば全く罪人を逃亡させる容易ならぬ罪に触れる所で有ったと御自分で私を有難くお思いなさる、ハイ夫は必ずですよ」
 自問自答の様に述べ終って、更に容儀を正して爾して秀子の方へ振り向いた、此の時まで余は唯呆気に取られ殆ど茫然として居たが、彼が容儀を正すを見て、初めて真成に秀子の身の危険な事を暁《さと》った、彼は容儀の改まると共に、全く厳めしい法律の手先と云う威厳が備わり、何となく近づき難い所が現われた、権田時介も余と同様に、此の時初めて秀子の危険を知り、容易ならぬ場合と思ったか、電光の様に余に目配せした、余も同じく目配せした、目配せの中には暗々《やみやみ》秀子を渡して成る者かと云う意味が籠り充分互いに通じて居る。
 森主水は秀子に向かって「モシ、輪田夏子さん綽名《あだな》松
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