斯う思って此の通りに仕た所、果して秀子は私の所へ遣って来て纔《わず》かに話を始めた所へ又貴方が来たのです、貴方の為に肝腎の話を妨げられたは遺憾でしたが、イヤナニ今思えば結句幸いになりましたよ、貴方の口から秀子を妻にする事は出来ぬとの一言を私が聞いたのみならず確かに秀子も聞きました、御存じの通り秀子は仲々気位の高い女ですから、アノ一言を聞いた以上は決して貴方の妻には成りません、此の後貴方が何の様に詫びたとて無益な事です」
余は殆ど死刑の宣告を聞く様な気持がした。余の一言を秀子が此の様に怒るだろうか、怒って何の様な詫びにも心が解けぬ事になるだろうか、斯う思うと実に心細い、今現に目の前に秀子の美しい顔と、其の気絶した傷々しい様とを見て、此の女から生涯疎まれる事に成るかと思うと殆ど一世界を失う様な心地がする、エエ残念、残念と思うに連れ、秀子の犯した罪さえも、何だか左程咎めるに足らぬ様な気がして、腹の中で其の軽重を計って見ると、決して悪意でお紺婆を殺した訳では有るまい、善悪の区別も未だ充分には呑み込めぬ我儘盛りの年頃で、甚く心の動く事が有って我知らず殺すに至ったとすれば随分其の罪を赦しても宜い
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