秀子の素性を能く御存じゆえ、少しも隠さずに云いますが、牢から秀子を連れ出したも私の力、今の通り無事に此の世に居られる事にしたのも私の力です、私は権利として秀子を自分の妻、自分の物と言い張る事は出来ますけれど、唯私の恩を感ずるのみで、私を愛すると云う情の起らぬ者を妻とするも不本意ゆえ、其のうちには愛の心も出るだろうと気永く親切を盡して居るうち、貴方が横合いから出て秀子の心を奪ったのです、全体此の様な事と知れば秀子を貴方の叔父上の家へ入り込ませる所ではなかったのです、唯当人が是非ともと云うに任せ、真逆に貴方に奪われるだろうとは気も附かず其の望みを許したのが私の間違いでした」余は殆ど茲へ故々権田を尋ねて来た主意さえ忘れ「自分の間違いなら間違いで、断念《あきら》めるが好いでは有りませんか、猶も未練を残し、非常な手段を取って、劫かすなどとは何たる仕方《しうち》です」
権田「イヤ其の様なお説教は今更貴方から受けるには及びません、茲で差し当りの問題は秀子が貴方の物か将《は》た私の物かと云うを極めるに在るのでしょう」余「夫は爾ですが――」権田「爾ならば余計の問題は入りません。唯一言で決します、貴方は
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