随分其の女は貴婦人の真似でも出来る様な質だったの」給仕「ハイ不断貴夫人の様に着飾ると、田舎者などに感心せられるのを大層嬉しがって居たと云う事です」お浦「今居れば幾齢ぐらいだろう」給仕「お紺婆の殺された時、十九か二十歳だったと云いますから今は二十五六でしょうが、併し美人に年齢無しとか云いますから矢張り若く見えて居る事でしょう」
 お浦は是だけで満足したか、問うのを止めて余の傍へ来て、最と勝ち誇った様子で「今の話を何と聞きました」余「何とも聞きませんよ」お浦「道さん、貴方の尊《うやま》う貴婦人は立派な素性です事ねエ。中働きの癖に情夫を拵えて出奔して、爾して古山お酉と云う本名を隠し松谷秀子などと勿体らしい名を附けてサ」余「エ、貴女は怪美――イヤ松谷嬢を其のお酉とやらだとお思いですか」お浦「私が思うのでは有りません、今は其のお酉より外に時計の捲き方を知った者もないと云うでは有りませんか、爾して松谷令嬢、オホホ大変な令嬢です事、其の令嬢も昨夜叔父さんに問い詰められ、以前に幾度も幽霊塔へ上ったと白状したでは有りませんか、同じ人でなくて何ですか」若し此の疑いの通りとせば真に興の醒めた話で有る、成る程
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