毒草を隠して居る罪人を、若し保護するに於いては全く人間の道を逆行する者である、と斯う迄は幾度も思い定めるけれど余の心中には猶一点の未練が有る、自分で掻き消すにも掻き消されぬ、勿論斯う成った以上は秀子を余が妻にする訳には行かぬ、けれど何だか可哀相でも有る、茲の思案が決せぬ間は家に帰って叔父に逢う訳にも行かぬ、秀子に逢う訳には猶更行かぬ、余は倫敦へ着いた者の其の後は何うして宜いか暫しがほど躊躇したが、漸くに思い定めたのは、兎に角に権田時介に逢って見ようとの一念である。
 彼|抑《そもそ》も何が為に余に先んじてポール・レペル先生を尋ねたか、果たして顔形を得る為とすれば何が為に其の顔形を要し、何が為に其の復写を作らせたのであるか、或いは彼、秀子を余に取られた悔しさに、其の顔形を以て秀子をおびやかす積りかも知れぬ、爾だ、何うせ爾とより外は思われぬ、若し其の様な心とすれば、彼と余との間に於いて秀子の問題を決着させねば成らぬ、孰れにしても逢って話せば分る事だ。
 愈々権田時介の住居の前に着いたのは夜の十時頃である、雨も蕭々《しょぼしょぼ》と降って居て、町の様も静かであるのに、唯不思議なは、何者だか権
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