と返事して好いか分らぬ、此の時の余の気持は真に察して貰い度い、今まで女の手本とも人間の儀表《ぎひょう》とも崇め、此の女に見習って我が心を清くしようと、旦夕《あけくれ》拝む様にして居た其の女が人殺し、牢破りの怪物だとは、世に是ほどの意外な事が又と有ろうか、余は一生の燈明が忽ち消えて暗黒の中へ身を投じた様な思いがした。
今までは証拠に証拠を積み重ねるとも秀子に悪事が有るなどとは決して信ぜず、之が為には全世界と闘うも辞せぬ程に思ったが今は先に立って秀子を罵らねば成らぬ、責めねばならぬ、素性が分れば心の中も能く分った、其の様な悪女で有ればこそ様々に手を盡してついに余の叔父の養女と為ったのだ、其の目的は外でもない、叔父が検事の職分を以て輪田夏子の罪案に対し、死刑を主張した者だから、自分の罪は思わずに唯叔父を恨み、何うかして仇を復そうとて先ず叔父の懐の中へ這入ったのだ、時々密旨を帯びて居る様に云う其の密旨は叔父へ復讐するに在るのだ、夫だからこそ夏子の墓へ詣でるのだ、詣でて死刑の悔しさや怨めしさを毎朝自分の心へ呼び起し復讐の熱心の一刻も冷めぬ様にして居るのだ、思えば、思えば恐ろしい毒々しい根性も有
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