、其の月の二十五日に権田時介が茲へ連れて来た様に記して有るのは何の間違いであろう。
 余は叫んだ。「先生、先生、貴方は欺かれたのです、殺人女輪田お夏が茲へ連れられて来るなどとは実際に有り得ぬ事です、死骸と為って地の下へ埋って今は其の上へ石碑まで立って居ますが」先生は少しも怪しむ様子がない。
「勿論石碑も立って居ましょうか、併し夫は事柄の表面さ、アノ墓をあばいて御覧なさい、空の棺が埋って居る許りです」余「エ、何と仰有る」先生「イヤ此のお夏は一旦死んで、爾して私の与えた新しい生命で蘇生《よみがえ》ったのです、死んだお夏は此の顔形で分って居ますが更に、其の蘇生った時の顔をお目に掛けましょう」云うより早く先生は仏壇の様な中から又彼の白木の箱を取り卸し、前と同じ事をして同じ顔形を引き起した。「サア是を見れば、云わずとも事の次第が分りましょう、エ丸部さん合点が行きましたか」余は更に其の顔形を見たが、此の方は松谷秀子である、秀子の顔を、ソックリ其の儘蝋の仮面に写したのである。

第七十六回 真の素性

 勿論、愛らしい活々した秀子の美しさが蝋細工の顔形へ悉く写し取らるる筈はない、此の顔形を真の秀子に
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