の様な時には秀子の為に熱心に働くに違いない。のみならず余よりも工夫に富んで居る、余は巴里へ行く前に彼に相談するが然るべきだ。唯彼は秀子に対する余の競争者である、恋の敵である、此の点が少し気掛りで聊か忌まわしくも思われるけれど、今は其の競争に余が勝って居るのだから、彼を忌むよりは寧ろ大目に見るべき場合だ、殊に秀子の為なれば区々たる其の様な感情は云って居られぬ。何れほど好ましからぬ相手とでも協同一致せねばならぬ。
夜深《よふけ》では有るけれど、叩き起して、語り明かしても好いという決心で彼の宿を尋ねた。けれど不在だ、倶楽部をも尋ねた、同じく不在だ、或いは彼余と同じく既に秀子の事に奔走して夫が為に何処かへ行ったのではあるまいかと、余は此の様な疑いを起したけれど不在の人ばかりは如何ともする事が出来ぬ、宿へも倶楽部へも、名刺の裏へ、緊急な用事のため至急に面会したいとの意を書いて残して置いた。
此の翌日の午後には早や巴里へ着した、ラセニール街二十九番館へ尋ねて行った。街は至って静かな所で殊に二十九番館は人が住むか狐が住むか、外から見ては判じ兼ねる様な荒れ屋敷で、門の戸も殆ど人の出入りする跡が見え
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