又一方から見れば秀子の仕業でないと云う事を指して居る事情も沢山有りましょう」森「平たく云えば反対の証拠が沢山あると云うのですね」余「そうです。縦しや反対の証拠と云うには足らずとも、反対の事情と云うには足るのです」森「何れ、何の様な反対の事情です、沢山の中の一二を挙げて御覧なさい」
サテ斯う云われては、之が反対の事情だと指して示す程の事柄は一つもない。余はドギマギと考えつつ「え譬えばさ」森「ハイ譬えば」余「お浦の紛失に就いても秀子が疑われたでは有りませんか、シテ見れば誰か秀子に犯罪の疑いを掛け度いと企んで居る人が有るかも知れません」森「有るかも知れずないかも知れず、其の様な事は数えるに足りません。夫から」余「夫から、左様さ此の家には素性履歴の分らぬ人間も随分あります。夫等の人間が何かの目的を以て秀子に疑いの掛かるように仕組まぬとは云えますまい」森「其の人間は誰ですか、先ず多勢ある者と見做して其の中のたった一人で宜いから名指して御覧なさい」余「譬えば高輪田長三の如き」
余は言い来《きた》って、余りに自分の大胆なるに呆れ、言葉を止めて森探偵の顔を見た。探偵も亦余の顔を見た。けれど彼は別に
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