真逆《まさか》に爾《そう》とも発表が出来ぬから、主人は内乱に紛れて行方知れずに成ったと云う事に噂を伏せて仕舞ったそうだ。
其の後は此の主人が幽霊に成って出ると云う事で元は時計塔と云ったのが幽霊塔と云う綽名で通る事と為り、其の後の時計塔は諸所《しょじょ》に出来た者だから、単に時計塔とばかりでは分らず公《おおやけ》の書類にまで幽霊塔と書く事に成った、勿論ドエライ宝が有ると云う言い伝えの為にも其の後此の塔を頽そうかと目論《もくろ》む者が有ったけれど、別に証拠の無い事ゆえ頽《くず》した後で若し宝が出ねば詰まらぬとて、今以て幽霊塔は無事で居る。
余が下検査の為此の土地へ着いたのは夏の末の日暮頃で有ったが、先ず塔の前へ立って見上げると如何にも化物然たる形で、扨は夜に入るとアノ時計が、目の玉の様に見えるのかと、此の様に思ううち、不思議や其の時計の長短二本の針がグルグルと自然に廻った。時計の針は廻るのが当り前とは云え、数年来住む人も無く永く留まって居る時計だのに、其の針が幾度も盤の面を廻るとは余り奇妙では無いか、元来此の時計は塔其の物と同じく秘密の仕組で、何《ど》うして捲き何うして針を動かすかは、
前へ
次へ
全534ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング