の有る点だけを塔の履歴として述べて置こう。昔此の屋敷は国王から丸部家の先祖へ賜わった者だが、初代の丸部主人が、何か大いなる秘密を隠して置く為に此の時計台を建てたと云う事で有る。大いなる秘密とは世間を驚動する程のドエライ宝物で、夫《それ》を盗まれるが恐ろしいから深く隠して置く為に、十数年も智慧を絞って工夫を廻らせヤッと思い附いて此の時計台を建てたと云うのだ、所が出来上ると間も無く主人が行方知れずに成った、イヤ行方知れずでは無い、塔の底の秘密室へ(多分宝物を数える為に)降りて行ったが、余り中の仕組が旨く出来過ぎた為に、自分で出て来る事が出来ず、去《さ》ればとて外の人は何うして塔の中へ這入るか分らず、何でも時計の有る所まで行かれるけれど其の所限りで後は厚い壁に成って一歩も先へ進めぬから、救いに行く事も出来ぬ、其の当座幾日の間は、夜になると塔の中で助けて呉れ、助けて呉れと主人の泣く声が聞こえる様に思われたけれど、家内中唯悲しんで其の声を聞く許りで如何とも仕方が無い、塔を取り頽すと云う評議も仕たが、国中に内乱の起った場合で取り頽《くず》す人夫も無く其のまま主人を見殺し、イヤ聞き殺しにした、けれど
前へ
次へ
全534ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング