る間に逃げ隠れをする訳にも行かず、帰って来て捕えようと裁判所へ引き出そうと、ハイ何の様な目にも遭わす事が出来るのです」
 成るほど夫もそうである、其の人に逢って見て、若し余が穴川に欺されたと分れば其の上で散々に穴川に仇を復す事が出来る。欺される気で、其の人に逢って見るも一策だ。余「では其の人の住所姓名を聞かせて下さい」穴川「佶《きっ》と其の人の所へ行くと約束しますか」余「します」穴川「行くなどといって、行かずに其のまま私を訴えたりすればそれこそ秀子は助かりませんよ。秀子は其の人から新しい命を貰わねば助かり様のない身体です。今までも既に一度新しい命を貰って、其の恩返しに、密旨の為に働いて居るのだから今度も矢張り新しい命を貰い、爾して幸福の中へ更に生まれ返った様に成らねば無益です」
 余り異様な言葉だから、多分は余を馬鹿にする積りだろうと幾度か思い直したけれど、実地に試さねば分らぬ事、エエ欺されて見ようと思い「必ず其の人の許へ行く事を約束しますから住所姓名を聞かせて下さい、サア誰ですか」穴川は此の際になり、嘘か誠か、惜し相に少し躊躇し「仕方がない、私の身には大変な損害ですけれど云いましょう
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