は何う云う訳で」余「何う云う訳とて、貴方が此の国に居ては秀子の幸福に邪魔に成ります」彼は何等かの決心を呼び起そうとする様に暫く無言で考えたが、頓て「左様さ邪魔にもなり助けにもなり、夫は私の心一つです、けれど否と云えば何うします」余「厭と云えば捕吏を差し向ける許りの事です。私が此の室へ忍び込んだのも、捕吏《ほり》を差し向ける丈の罪跡を得たいばかりの一念です。今は充分の罪跡《ざいせき》を見届けたから、貴方の否応は大して私に利害はなく、応と云えば無事に外国へ逃がして上げるし、否と云えば死刑と云う法律の手を仮りて人間の外へ、ハイ此の世の外へ引越して戴く許りです。サア何方を択《えら》びますか、敢て私から何方にせよと勧める訳ではない、唯貴方の随意の一言を聞けば好いのです、応ですか、否ですか」
 彼の顔附きは見るも憐れな有様である。立腹と当惑と、決心と恐れとが戦って居る、頓て彼は弁解する様な口調で「罪跡とて私に何の罪跡が有るのです、正直に蜘蛛を養って一家を立てて居る殖産家ですが、エ、二階に白痴を留め置いたのが罪跡ですか。彼は私の知った事ではなく、唯大場医学士、イヤ医学士ではないけれど仮に医学士と云い
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