此の室へ閉じ込むなどと」医学士「ハイ夫が貴方に教わった兵法のいろはですよ。確か停車場へ荷物を取りに行くとか云って私に油断させ、爾して此の家へ忍び込んだは貴方でしたねえ、唯貴方の名刺を頂かなんだは残念ですが、夫を戴いたりする間に気が附かれては成らぬと、何れほどか私の心が迫《せ》かれたでしょう。ナニ名刺は今戴かずとも貴方が抵抗力のなくなった頃、衣嚢を探れば分ります。何しろ貴方のお得意の此の兵法のいろはと云うは、用いて見ると仲々功能が有りますねエ」余は悔しさに地団太を踏んだ。余「エエ、其の様な無礼な言葉は聞きたく有りません、口数に及ばず一言でお返辞なさい。此の戸を開けますか開けませんか」医学士「ハイ一言で申します、開けません」とせんの語音に非常の力を込めて云う憎さ、余「開けねば内から叩き破ります」医学士「何うかそう願います」余は我が身が微塵と成っても宜いと、全身の力を込めて戸に突き当ったが宛で石の壁に突き当てたる様な者だ、音はするけれどビクともせぬ、外からは医学士が「オオ中々力がお強い、今に戸が破れますから精出してお突き当り成さい」
無益とは知っても斯う冷かされては其の儘止む訳に行かぬ、最
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