。余は医学士に一ぱい陥《は》められた。

第五十七回 後は真の暗闇

 戸を閉じる音を聞きて余はハット驚いた、若しや医学士に一ぱい陥められたのではなかろうか、斯う思って狭い廊下を、戸口の所へ馳せ附けたが、残念、残念、事既に遅しである。外から既に戸に閂木を差し了った後である。
 今思うと余は実に愚かであった、医学士が意外に弱い音を吐いて、少しも余の立ち去るのを妨げぬ様に云った時、余は彼の心に一物ある可きを看て取らねば成らぬ処であった。真逆に少しも疑わなんだ訳でもないが、斯様な巧みとまでは気附かなんだ、殊に手燭を置いて行かれた嬉しさに、此の燈光で室の中を見ようと思い、イヤ見ようと思うほどの暇もなく、只浮っかり見廻して居る間に、早くも斯様な目に逢ったのだ。
 戸の外には未だ医学士と婆とが居るらしいから、余は戸を叩いて「モシモシ何で此の戸をお締めなさる」と叫んだ。医学士は鍵穴の辺へ口を接近させた様子で「イヤ貴方は其の室の中の住者を大層お可愛がり成さる様子だから当分同居させて上げようと思いまして」と無体極まる言葉を吐いて呵《から》々と打ち笑った、余は怒髪冠を衝くと云う程の鋭い声で「実に貴方がたは
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