退けます、如何なる困難を冒して成りとも」秀子は飛び離れて「了ません、丸部さん、私は大変な事を忘れて居ました、此の度の事は貴方のお蔭で助かりましたが、之よりも恐ろしい、到底《とて》も助かる路がなかろうと思う様な事柄に攻められて居るのです、妻にもなれず、永く此の世に居る事も出来ません」秀子の言葉は常に秘密の中に包まれ何事だか察することも出来ぬけれど今まで偽りの有った事がない、分らぬながらも皆誠だ、余「人として此の世に居る事の出来ぬ様な其んな事柄が有りますものか、今までは他人ゆえ、深く貴女に問う事も出来ませんでしたが、愛と云うお言葉を聞いた上は最う自分の事として其の困難に当ります、何の様な事ですか、何の様な事ですか」秀子は首を垂れて考え込み、顔も見せねば返事もせぬ、余「其の事柄が若し今直ぐに聞かして下さる事が出来ぬとならば、其の方は後として、其の前に貴女が人の妻に成られぬと云う其の訳を伺いましょう、私を愛しても私の妻に成れぬとは何故です、間を隔てる人でも有るのですか、有れば其の人は誰ですか」
「権田弁護士」と取り次の者の名乗る声が此の時聞こえた、引き続いて権田時介が此の室へ入って来た。
第
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