々《ありあり》と存《のこ》って居るのを見た、殊に余のみではなく、お浦の知人中には折々之を見た人が有ろう、根西夫人なども確かに其の一人だ、所が此の死骸の腕には何の繍身もない。
余が此の二カ条を言い立てると検査官は驚き、直ぐに又叔父を呼び出して、尋問したが叔父も足の裏の大創の事は覚えて居た、次に根西夫人を呼び出して又尋問したが夫人も成るほど浦原嬢の腕に繍身が有って夕衣を着て居る時には何うかすると見えた事を今思い出したと陳べた。
畢竟するに余が此の死骸を斯うまで検める事に成ったのは、唯、入口で医師が「三十位」と探偵に細語くのを洩れ聞いた為である、誰も彼も死骸の事にのみ気を奪われて居る際ゆえ「三十位」と云うのは死骸の事に違いないが、扨死骸の何が三十位であろう、或いは其の年齢では有るまいか、果たして年齢とすれば若しやお浦と別人ではなかろうかと此の様な疑いが一寸と浮かんだ、若し此の言葉をさえ洩れ聞かなんだら、一も二もなくお浦と思い、二ケ条の事柄さえ殆ど思い出さずに終ったかも知れぬ。
読者は何と思うか知らぬが此の死骸がお浦でないとすれば実に大変な事になる。
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