に分れ、馬車の許へ駆けて行くと、叔父は怪訝な顔で「怪我は何うした、怪我は何うした」と畳み掛けて問わる。余「エ、怪我とは誰の」叔父「お前のよ」余「エ、私が怪我したなどとは夫は何かの間違いでしょう、此の通り無事ですが」叔父「無事なら何より結構だが、ハテな、誰の悪戯だろう、先ず此の電信を見よ」と云って一通の電信を差し出した、馬車の燈火に照して読むと「ドウクロウ、オオケガ、スグキタレ、イナカホテルヘ」と有り「叔父さん誰かが貴方を欺いて誘き寄せたのですよ、跡方も無い事です、併し此の様な悪戯者が有っては不安心です、貴方は直ぐに宿屋へお出なさい、私は直ぐに電信局へ行き、何の様な奴が此の電信を依頼したか聞いてから帰ります」叔父「四十里を通し汽車で、二時間半で此の先の停車場へ着いたが、己は疲れたから其の言葉に]おう」お浦は余が一言も掛けぬに少し不興の様子で「おや道さん四十里も故々《わざわざ》介抱に来た私には御挨拶も無いのですか、今一緒に歩んで居た美人にでも此の様に余所々々しいのですか」と、叔父の顔を顰《しか》めるにも構わず呶《ど》鳴った、余は単に「イヤ挨拶などの場合で無い」と言い捨てて電信局を指して走っ
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