の乳母と云うのが仲々剛い女で、叔父の家を切って廻して居たが、死ぬ前に叔父を説き附け、余が学校へ這入って居る留守中に余の未来の妻と云う約束を極めた相で、尤も余の叔父は人が願えば何事でも諾《うん》、諾と答える極めて人好しゆえ此の様な約束にも同意したのであろう、余は大恩ある叔父の言葉に背く訳にも行かず又今まで外に見|初《そ》めた女も無かったから其の約束に従い、何時でも余の定める日を以て婚礼すると云う事に成って居るが、余は余り進まぬから生涯其の日を定めずに居ようかと思って居る、美人でも何でも乳母の娘では、余り感心が出来ぬ、併しお浦は既に丸部夫人と云う気位で交際社会からも持て囃されるし、通例世間一般の女房たる者が酷く所天《おっと》を圧制する通りに余を圧制しようと試みる、余の為す事には何でも口を出す、愈々婚礼でも仕た後は余ほど蒼蝿《うるさ》い事だろうと覚悟して居る、併し閑話《あだしごと》は扨置いて、余は呼ばるる儘に急いで馬車の傍へ行こうとしたが、暫し怪美人に振り向いて「丁度叔父が来ましたから何うか今夜食事の後で時計の捲き方をお教え下さい、私が叔父へ話し、貴女へ面会を願わせますから」斯う云って怪美人
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