口からアノ時の争いの一部始終を告げたと見える、自分の身に疑いの掛るのも知らないで何だって告げたのだろうと、余は残念に堪えぬけれど、又思うと畢竟《ひっきょう》秀子の心が清いから打ち明けたのだ、堅く自分の潔白を信じ、縦し疑われても危険はないと全く安心をして居るのだ、イヤ本来が、何の様な場合にも嘘などは吐かぬ極々正直な心根だよ。
暫くすると今度は秀子が上って来た、余はアノ左の手を何うしたろうと思い、夫とはなく目を注ぐに、例の異様な手袋はお浦に取られてお浦と共に消えて了ったと見え、別に新しい手袋を被めて居るが、此の手袋も通例のとは違い、スッカリ腕まで包む様に出来て居る、けれど余は其の様な事には気も附かぬ振りで「秀子さん貴女は森探偵にお浦と争った事を話したと見えますネ」秀子「ハイ浦子さんの失踪に付き何か心当りの事はないかと問われましたが、アノ争いより外には何も知った事は有りませんから争いの事を告げました」余「貴女が御自分で密旨を帯びて居らっしゃる事も告げましたか」秀子「イイエ私の密旨は少しも浦子さんには関係はなく、爾して探偵などに告げ可き事柄で有りませんから告げません」余は聊か安心した、密旨な
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