し抜けに秀子の左の手へ飛び附き、手首を捕えて其の手袋を引き抜こうとしたらしい、秀子「余り乱暴な事をなさる」お浦「ナニ乱暴も何も有りません」と云って、何だか組み打ちでも始めた様に、暫し床板を踏み鳴らす音が聞こえる、余はお浦の憎さに堪えぬ、起って行って叩き殺し度いほどにも思うが、身動きさえも叶わぬから如何ともする事が出来ぬ、併し組み打ちも少しの間で、何しろ不意を襲うた事とてお浦の勝利に帰したと見え、お浦は「オー抜き取った、貴女の秘密は此の手に在ります」と勝ち誇る様に叫んだが、此の手とは定めし秀子の左の手の事で有ろう、秀子の左の手に何の秘密が有ったか知らぬがお浦は其の秘密に一方ならず驚いた様子で又一声「オオ恐ろしい、恐ろしい、此の様な此の様な」と云ったまま、後の語を発し得ぬ。
第三十一回 悔むとも帰らぬ目
秀子の左の手の手袋の下に何が隠れて居たであろう、お浦は何の様な秘密を見たのであろう、余は実に怪しさの想いに堪えぬ。
暫くしてお浦は全く敵を我が手の中に取り押えたと云う口調で「此の秘密を見届けたからは秀子さん貴女は最う死骸も同様です、私に抵抗する事も出来ず、イイエ娘分として此の家に居
前へ
次へ
全534ページ中143ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング