ち去り掛けて居ると、忽ち墓の背後から一人の男が現われた、是は確かに、昨夜秀子を看破する積りで当ての外れた高輪田長三で有る、秀子は驚いて起き上る、長三は帽子を脱いで礼をする、秀子は其のまま家の方へ立ち去ろうとする、長三は其の前へ立ち塞《ふさ》がる、何うも穏かならぬ様子だから余は飛び出して秀子を保護しようと思ったが、イヤ未だ急ぐ事ではない、長三は握手の積りか手を差し出す、秀子は否と云う風で両手を自分の背へ廻す、長三は怯まずに猶も進む、秀子は右の手を出して長三を突き退ける、長三は再び身を立て直して取っ掛り、依然として秀子が背後へ隠して居る左の手を取ろうとする、通例の女なら助けをも呼ぶ可き場合だろうが秀子は別に声も立てず、唯逃れようと悶く許りだ、最早見て居る場合でない、余は飛んで行って横手から長三を突き飛ばした、自分ながら我が力に驚いた、長三は倒れんとするほどに蹌踉《よろ》めいた。
 余は彼が足を踏み直すを待ち、砕けるほどに彼の手を握った、秀子は真実に有り難そうに余の顔を見て「此の方は昨夜初めて逢った許りだのに、護衛のない女と見て実に無礼な事を成されます」長三も余に向い「イヤ別に無礼と云うでは
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