のだ、其の金を隠して有った所から其の引き出した度数と月日まで此の権田|氏《うじ》が取り調べて悉く証拠を得たので最早高輪田を処刑し、秀子の寃《えん》を雪ぐ事が容易である、けれど道九郎、それに就いて又一つ困難なは高輪田を処刑するには勢い再び秀子を人の口端に掛かる様な位置に立たさねば成らぬ、最早今日では輪田夏子は牢死した者と偽り其の墓まで其の屋敷に在るのだから、今更世間の人へ其の墓が空だと云う事を知らせ爾して夏子が今の秀子で有ると云う事を悟らせるも辛し、夫かとて長三を裁判へ引き出す日にはそれを悟られずには済まぬ訳だし、此の辺の事に就いても其の方の智恵を借らねば、己は最う思案も智慧も盡きて居る」後悔やら当惑やら全く持て余したる体である、余「イエ叔父さん、少しも其の様な御心配には及びません、高輪田長三は既に相当の裁判に服しました、爾して秀子も其の裁判を見て既に満足したのです」叔父は、寝台も揺ぐほど驚いて「エ、エ、何と」
第百二十一回 寧ろ兄妹
叔父は容易に驚きが鎮まらぬ、「エ、高輪田長三が相当の裁判に服したとな、其の様な筈はない」余「イエ叔父さん此の世の裁判ではなく天の裁判です、昨夜彼は心臓破裂の為頓死しました」
余は此の事を先ず暫くは叔父の耳へ入れずに置く積りで有ったけれど、今は叔父の心配を弛める事に事細《ことこまか》に語って了った、叔父は安堵の胸を撫で「本統に天の裁判だ、それは何より安心だ、是で最う秀子を再び人の口端に掛からせるに及ばぬ、若しも他日秀子と夏子と同人だなど疑う人が有れば、其の時に夏子の潔白を証明し誠の罪人は高輪田だったと知らせれば好いのだ、夫を知らせる材料は既に権田氏が取り揃えて呉れたのだから、併しナニ其の高輪田が死んで見れば、彼冥途から毒舌を振うて秀子を傷つける事も出来ず、誰も秀子の前身を疑いなどする者はない、アア人の死んだを目出度いと云う事はないけれど高輪田の死は全く天の干渉だ、先ず先ず目出度い」暫く安心の息を吐いて居たが又思い出した様に打ち萎れ「それに就けても己は益々秀子に済まぬ、充分に詫びをして秀子の心の解ける様にせねば」と云い、容易に落ち着く気色も見えぬ、余は慰めて「イエ叔父さん、済まぬのはお互いでしょう、秀子とても今まで幾分か貴方を欺いて居たでは有りませんか」叔父は断乎として「イヤイヤ秀子は少しも人を欺かぬ、既に己が高輪田長三から秀子と夏
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