子と同人だと聞いたとき詰問したのに秀子は有体にハイ私は元の輪田夏子に相違有りませんと答えた一言でも嘘言を吐いた事のないのは恐らく秀子だろう、若し幾分でも秀子の為に吾々が欺かれた事が有るとすれば、それは秀子が欺いたではなく、吾々が自ら思い違いをしたのだ、其の思い違いをば秀子がそれは思い違いですと説き明かして吾々の迷いを解く事はせなんだかも知れぬが、自分から進んで人を欺いた事は決してない」成るほどそう云えば爾で有る、唯秀子が此の方の思い違いや認め違いを、其のまま正さずに放って置いた事は有るが夫は秀子の罪でなく此方の不明と云う者だ、初めて逢った時から今日まで秀子の言行は唯誠で貫いて居る。
 余が斯様に考えて居る間に叔父は余を迫立《せきた》てて「何うか道九郎、茲へ秀子を連れて来て己と共々に其方の口から詫びて呉れ、其方ならば遠からず秀子の所天《おっと》になるのだから、所天の言葉と思って秀子も心が解けるであろう、さァ直ぐに呼んで来て呉れ」
 余が秀子の所天と既に定まった様に云っては、権田時介が何の様に思うだろう、余は時介に対しても此の言葉を黙って居る訳に行かぬ。「イエ叔父さん私と秀子とは未来の夫婦ではないのです」叔父「エ」余「ハイ少し仔細が有って其の約束を取り消しました、奇麗に全くの他人、寧ろ兄妹の様に成る事に、既に秀子と相談を極めました、夫ですから秀子を茲へ呼ぶなら何うか此の権田氏にお呼《よば》せ下さい」
 是だけ云えば、扨は権田が秀子の所天に成る訳かと大抵叔父が覚り相な者である、縦し覚らずとも余は此の上の説明をする勇気がないから「それに私は尚だ捨て置き難き用事が有りますから」と云って叔父が問い返す暇のない間に此の室を立ち去った、秀子に関する一切の事は最う権田に任せて置く外はない。
 茲を立ち去り直ぐに自分の居間へ帰ったが、最早全く秀子を権田に渡して了ったと思えば、此の世の楽しみが悉く消え失せて殆ど生きて居る張り合いもない、と云って真逆に死ぬる訳にも行かぬから、当分此の国を立ち去って、心の傷の癒えるまで外国を旅行しよう、父から遺された財産が尚だ幾分か存して居るから其の中には何うか身を定める工夫も附くだろうと、独り陰気に考え込んで居る間に、昨夜来の疲れと見え、卓子に臂《ひじ》を突いたまま眠って了った。
 暫くして人の足音に目を覚して見ると傍に彼の森主水が立って居る。彼は権田に謝
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