痛苦の想像せられる種になる。
 爾して猶だ驚いた一事は、骸骨の右の手が、堅く握った儘で、其の握りの中に古い銅製の大きな鍵を持って居る、何の鍵かは知らぬけれど、若し咒語に在る「明珠百斛、王錫嘉福」の語が、此の塔の底へ宝を隠して有る謎とせば、此の鍵は其の宝を取り出す為の鍵であろう、アア此の人や、生前に其の宝を隠さんが為に、斯様な異趣異様の塔を立て、自ら其の底に死し、猶足らずして、白骨と為って後までも宝庫の鍵を確《かた》く持ち、爾して髑髏の目を凹まして此の入口に見張って居るとは、宝に奇妙な因縁の生まれでは有ると、余は感慨に堪えぬ想いがした。
 兎も角も此のまま置くとは何とやら其の人の冥福にも障る様な気がしたから余は手巾を取り出し、骸骨の顔を蔽《かく》し、回向《えこう》の心で口の中に一篇の哀歌を唱えた。
 何分にも永居するに堪ぬから起き上り、最早此の辺に秀子の居る可き筈であると四辺を見廻したけれど何分にも蝋燭の光が弱く、一間と先は見えぬ、蝋燭を高く持てば自然と遠く其の光が達する筈と、頭の上へ差し上ようとしたが、忽ち天井へ支えて燈は消えた、爾だ茲は穴倉である、天井と床との間が僅かに六尺ほどしかない、三たび燈光を点け直し、静かに検めると、此の室の広さは分らぬけれど、壁に添うてズッと奥まで緋羅紗で張った腰掛台が列《つらな》って居て、其の前に確かに棺だろうと思われる大きな箱が、布の蔽に隠されて並んで居る、此の箱に何が収って居るかは余の問う所でない、余は唯、秀子は、秀子はと目を配るに腰掛台の端の方に伏俯向いた一人の姿は、見擬う可くもない秀子である、秀子、秀子、何が為に俯向いて居る、何が為に身動きもせぬ、若しや既に事切れとなった後にはあらぬかと、余は其の所へ馳せ寄った、爾して秀子の手を取ったが、悲しや其の手は全く冷え切って居る。

第百十回 毒蛇でも捨てる様に

 取った手先の冷え切って居るのは全く事切れた後の様では有るけれど、余は何となく秀子の身体に猶だ命が籠って居ると思う。
 真に秀子が死んだのなら、余は自ら制し得ぬ程に絶望すること無論であるけれど、何と云う訳か爾ほどには絶望せぬ、随分呼び活《い》ければ生き返る様な気がする。
 片手に冷えた手を持った儘に四辺を見ると、多分は秀子が持って来たのであろう、腰掛台の上に手燭がある、蝋燭は今より幾十分か前に燃えて了った物らしい、依って余は自
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