立った。
茲で熟く考えて見ると、大抵此の辺が塔外《そと》の地盤と平均して居るらしく思われる、是から下は地へ掘込んだ穴倉の様な所に違いない。
何れほど深く穴倉へ這入るのかと、怪しみつつ其の石段を降り初めたが、又思うと此の石段が、確かに先刻|電光《いなびかり》が差し込んで、深く深く余の目に映じた其の階段に違いない、勿論アノ時は唯チラリと見た許りで、能くは見て取り得なんだ、けれど頗る様子が似た様に思われる、シテ見ると、人だか何だか着物を被た者が横たわって居る様に見たのも、此の石段の下で有る、若しや秀子で有ろうかと見直したけれど、其の時は早や電閃《いなずま》の光が消えて見る事が出来なんだが、之を降り盡せば其の横たわって居る一物を確と見届ける事が出来る、爾う思うと余は神気平なる能わずと云う様で、何となく薄気味悪く、胸も切に騒ぎ出した。
一段、又一段、愈よ段の下に着いた、正しく人の様な者が横たわって居る、蝋燭の光で見ると、其の着物が昔の錦襴の様な織物で有る、秀子の衣服とは全で違う、ハテなと思って余は、其の背だか何所だか手の当るに任せて引き上げて見たが、着物は余ほど古いと見え、朽た木の葉の破れる様に音もなく裂けて来る。
此の時、大方蝋燭が盡き、殆ど手に持って居るが六かしくなったから、更に新たなのを点け替て、此の人の頭の方を検めに掛かったが、余は尻餅を搗《つ》かぬ許りに驚いた、何うだろう、人と思ったのは幾年を経た骸骨で、晒しも切らずに黒く固まって居る、アア骸骨が錦を着て塔の底に寝て居るとは聞いた事がない。
けれど余は直ぐに思い出した、此の骸骨が昔此の幽霊塔を立てた此の家の先祖に違いない、塔の底へ這入ったまま、出る事が出来ずして、助けを呼びながら死んで了い、其の死骸は今日まで取り出す事が出来ずに在ると世の伝説に残って居るのが此の不幸な骸骨である、死ぬるまでに何れほどか残念であったやら、何れほどか悶いたやら、定めし其の恨みが今も消え得まいと思えば哀れにも有り、恐ろしくも有る、けれど余は猶此の上を見極めずに此の所を離れる事は出来ぬ、宛も目に見えぬ縄を以て死骸の傍へ縛り附けられた様な工合に、只|躄《すく》み込んで殆ど身動きも得せずに其の死骸の顔を見るに、何れほどか恨めしく睨んだであろうと思われる其の眼は単に大きな穴を留むるのみで、逞しい頬骨が最と悔しげに隆起して居るのも、其の時の
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