の室があることが分る。
 此の様に思案して居ると、再び以前の物凄い叫び声が聞えた、今度は前ほど鋭くなく、殆ど病人の呻吟《うめ》き声かとも思われ、爾して続き方も以前ほど長くなく少しの暇に止んで了った、余の見当に由ると何うしても今の声は余の居間で発した者だ、決して塔の底の方でもなければ上の方でもない、ハテナ、余の居間へ如何なる怪物が入り込んで居るだろう、斯う思うと引っ返して見届け度いような気もする、けれど明日の昼の十二時までは塔の此の部分から出る事は出来ぬのだから我が居間の事などは思うだけ無益である、其れよりは早く塔の底へ降らねば成らぬ。
 図※[#「※」は「たけかんむりの下にかねへんの碌」、読みは「ろく」、190−下9]がなくては如何とも仕方はないが、兎に角、八所《やところ》の戸を悉く開いて検めるが第一だ、其のうち一ケ所は今上から降りて来て這入った所だから検めるには及ばぬ。
 残る七ケ所を一々検めた、中には鼠が巣を作った跡の見える所も有る、成るほど鼠なら此の塔の秘密を知って居よう、鼠が言葉を解する者なら問うて見るのになど呟きつつ検めて最後の一ケ所と成ったが、有難い、此所には熟く視ると埃に印して足跡が附いて居る、確かに女の穿く踵の小さい靴である、之が秀子の足跡でなくて何であるか、余は真に神に謝した、最う秀子の居る所は分った、彼女は兼ねて充分に図※[#「※」は「たけかんむりの下にかねへんの碌」、読みは「ろく」、190−下18]をも研究して居たに違いないから、迷いもせず一筋に塔の底へ降ったのだ、此の上は此の足跡を見損ぜぬ様に、尾けて行けば其れで良い、蝋燭を振り照し、宛も猟犬が獲物の足跡を尋ぬる様に、注意に注意して降った、イヤ是から先の入り組んで居る事は、八陣を布いた様だ、小路の上に小路があり、或いは右、或いは左、忽ち登り忽ち降ると云う様で、足跡の助けなくば到底も行かれる事ではない、全体先あ何の必要が有って斯うも迷い易い面倒な道を仕組んだので有ろう、若し言い伝えられて居る通り大きな宝を隠す為とせば、其の宝は余ほど貴重の物でなくては成らぬ、咒語に「明珠百斛」などと有ったが、是が其の宝の意味か知らんと、余は益々怪しく思った。

第百九回 骸骨が錦を被て

 真に八陣の様に入り組んだ廊下や階段を廻っては降り、降っては又廻り余は遂に之が最後の降り路で有ろうと思われる大理石の階段の上に
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