入を取ッて寄越せ(妾)なに貴方賊など這入《はいり》ますものか念の為めに見て上《あげ》ましょう」と云いながら妾は起きて後なる押入の戸を開けしに個《こ》は如何に中には一人《ひと》り眠れる人あり妾驚きて「アレー」と云いながら其戸を閉切れば眠れる人は此音に目を覚せしか戸を跳開《はねひら》きて暴出《あれいで》たり能く見れば是れ金起の兄なる陳施寧なり、今より考え想い見るに施寧は其子寧児より此頃妾が金起と共に其留守を見て泊りに来ることを聞出し半ば疑い半ば信じ今宵は其実否を試さんとて二日泊りにて横浜へ行くと云いなし家を出たる体に見せかけ明るき中より此押入に隠れ居たるも十時頃まで妾と金起が来らざりし故|待草臥《まちくたび》れて眠りたるなり、殊に西洋|戸前《とまえ》ある押入の中に堅く閉籠りし事なれば其戸を開く迄物音充分聞えずして目を覚さずに居たる者なり夫《それ》は扨置《さてお》き妾は施寧が躍出るを見て転《ころが》る如くに二階を降しが、金起は流石に男だけ、徒《いたずら》に逃たりとて後にて証拠と為る可き懐中物などを遺しては何んの甲斐も無しと思いしか床の間の方に飛び行かんとするに其うち早や後より背の辺りを切り附
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