連れて逃げて呉《くれ》れば好いと、イヽエ口《くち》には云《いわ》ぬけれど本統だよ、来てお泊りな、エ、お前今夜も明《あす》の晩も大丈夫、イエ月の中に二三度は家を開るよ横浜へ行てサ、其留守は何《どん》なに静で好だろう是からネ其様《そんな》時には逃《のが》さず手紙を遣るから来てお泊りよ、二階が広々として、エお出なネお出よお出なね、お出よう」母は独りで多舌立《しゃべりた》て放す気色も見えざる故、妾も金起もツイ其気になり此夜は大胆にも築地陳施寧の家に行き広々と二階に寐《い》ね次の夜も又泊り翌々日の朝に成り寧児には堅く口留して帰りたり此後も施寧の留守と為ること分るたびに必ず母より前日に妾の許へ知らせ来る故、妾は横浜より金起を迎え泊り掛けに行きたり、若し母と寧児さえ無くば妾《わらわ》斯《かゝ》る危き所へ足蹈もする筈なけれど妾の如き薄情の女にも母は懐しく児は愛らしゝ一ツは母の懐しさに引《ひか》され一ツは子の愛らしさに引されしなり、去れば其留守前日より分らずして金起を呼び迎える暇なき時は妾唯|一人《ひと》り行きたる事も有り明治二十年の秋頃よりして今年の春までに行きて泊りし事|凡《およ》そ十五度も有る程な
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