の大疑団は氷解したり今お紺が荻沢警部の尋問に答えたる事の荒増《あらまし》を茲に記さん
 妾《わらわ》(お紺)は長崎の生れにて十七歳の時遊廓に身を沈め多く西洋人支那人などを客とせしが間もなく或人に買取られ上海《しゃんはい》に送られたり上海にて同じ勤めをするうちに深く妾《わらわ》を愛し初めしは陳施寧と呼ぶ支那人なり施寧は可なりの雑貨商にして兼てより長崎にも支店を開き弟の陳金起《ちんきんき》と言える者を其支店に出張させ日本の雑貨買入などの事を任《まか》せ置きたるに弟金起は兎角放埓にして悪しき行い多く殊に支店の金円を遣い込みて施寧の許へとては一銭も送らざる故施寧は自ら長崎に渡らんとの心を起し夫《それ》にしてはお紺こそ長崎の者なれば引連れ行きて都合好きこと多からんと終《つい》に妾を購《あがな》いて長崎に連れ来れり施寧は生れ附き甚だ醜き男にして頭には年に似合ぬ白髪多く妾は彼れを好まざれど唯故郷に帰る嬉さにて其言葉に従いしなり頓《やが》て連《つれ》られて長崎に来り見れば其弟の金起と云えるは初め妾が長崎の廓にて勤めせしころ馴染を重ねし支那人にて施寧には似ぬ好男子なれば妾は何時しかに施寧の目を掠めて又も
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