人陳施寧が全く遺恨の為に殺したのです」荻沢は暫し黙然として考えしが「成る程貴公の云う事は重々尤も髪の毛の試験から推て見れば何うしても支那人で無くては成らず又同じ支那人が決して二人まで有《あろ》うとは思われぬ併し果して陳施寧として見れば先ず清国領事に掛合も附けねばならず兎に角日本人が支那人に殺された事で有るゆえ実に容易ならぬ事件で有る(大)私しも夫《それ》を心配するのです新聞屋にでも之が知れたら一ツの輿論を起しますよ何しろ陳施寧と云うは憎い奴だ、併し谷間田は爾《そう》とは知らず未だお紺とかを探して居るだろうナ
 斯く云う折しも入口の戸を遽《あわた》だしく引開けて入来るは彼の谷間田なり「今陳施寧と云う声が聞えたが何うして此罪人が分ッたか―(荻)ヤヽ、谷間田貴公も陳施寧と見込を附けたか(谷)見込所では無い最《も》うお紺を捕えて参りました、お紺の証言で陳施寧が罪人と云う事から殺された本人の身分殺された原因残らず分りました(荻)夫《それ》は実に感心だ谷間田も剛《えら》いが、大鞆も剛い者だ(谷)エ大鞆が何故剛い―


          下篇(氷解)

 全く谷間田の云いし如くお紺の言立にも此事件
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