上りとか何《なん》とか云うなら随分お先煙草《さきたばこ》と云う事も有ますけれど彼れは爾で有ません、安物ながら博多の帯でも〆《しめ》て居れば是非|最《も》う腰の廻りに煙草入が有る者です(荻)夫《それ》なら其煙草入や財布|抔《など》が何うして無《なく》なッた(大)夫が遺恨だから無《なく》なったのです遺恨とせねば外に説明の仕様が有ません、遺恨も唯の遺恨では無い自分の身に恨《うらま》れる様な悪い事が有て常に先の奴を恐れて居たのです、何でも私しの考えでは彼れ余程|緩《ゆっ》くりして紙入も取出し煙草入も傍に置き、打寛ろいで誰かと話でも仕て居たのです其所へ不意に恐しい奴が遣《やっ》て来た者だから取る者も取合えず逃出したのです夫だから持物は何も無いのです(荻)而し夫だけでは何うも充分の道理とも思われんが(大)何故充分と思われません第一背の傷が逃た証拠です自分の身に悪い覚えが無くて何故逃ます、必ず逃る丈の悪い事が有る柄《から》です、既に悪い事があれば恨まれるのは当前《あたりまえ》です、自分でさえ悪いと思って逃出す程の事柄を先方が恨まぬ筈は有ません(荻)夫《それ》は爾《そう》だ、左すれは貴公の鑑定では先ず
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