可き所は殺された男が一ツも所持品を持て居無《いな》い一条です、貴方を初め大概の人が是は殺した奴が露見を防ぐ為めに奪い隠して仕舞ッたのだと申ますが決して爾《そう》では有りません、若し夫《それ》ほど抜目なく気の附く曲者なら自分の髪の毛を握られて居る事にも必ず気が附く筈です然るに髪の毛に気が附かず其儘握らせて有たのは唯|最《も》う死骸さえ捨れば好いとドギマギして死骸を担ぎ出したのです(荻)フム爾だ所持品を隠す位なら成る程髪の毛も取捨る筈だシテ見ると初《はじめ》から持物は持て居無《いなか》ったのかナ(大)イエ爾でも有ません持て居たのです、極々下等の衣服《みなり》でも有ませんから財布か紙入の類は是非持て居たのです(荻)併し夫は君の想像だろう(大)何うして想像では有ません演繹法《えんえきほう》の推理です、好《よ》し又紙入を持ぬにしても煙草入は是非持て居ました彼れは非常な煙草好ですから(荻)夫《それ》が何《どう》にして分る(大)夫は誰にも分る事です私しは死骸の口を引開て歯の裏を見ましたが煙脂《やに》で真黒に染って居ます何《ど》うしても余程の烟草|好《ずき》です煙草入を持て居ない筈は有ません、是が書生
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